杉尾信子は、まず頭を空っぽにし、無の状態で耳をすます。
冷蔵庫から微かに聞こえる電子音、遠くに響く子供達の声、突然に風が何かを鳴らす音。
耳から入ってくる様々な生活音だけではなく、時には敢えてラジオを聴きながら、ひたすら線を走らせていく。
次第にその線は密度を高めて積み重なり、キャンバスの上で形づくられ絵となっていく。
予め思案し捻り出されたものではなく、風に吹かれた線がキャンバスの上に撒き散らされたような、ただそんなふうに制作されたものである。しかし、絵にはドラマがあり、風景があり、ある時は風が吹いていたり、あたたかな太陽が照っていたり、何人もの人々の賑やかな会話を感じさせるように、線に命が吹き込まれ、杉尾信子の絵となっていくのだ。
 
『頭をできるだけ空っぽにして、手の動きに任せて線を描く。
動き出した線が、画面の中に蓄積されて一枚の絵になっていく。
新しい発見をしたくて、今日も描く。』杉尾信子

空に放つ
2020
41.0 × 41.0cm
water paint on paper

春のはじまり
2020
45.5 × 45.5cm
acrylic on canvas

明日を待つ
2020
45.5 × 45.5cm
acrylic on canvas